知らない人との雑談
夕方、5時前にスーパーへ行き、買った食材を引っ提げて帰るとき、
日が暮れて暗くなりかけていた。
あと10分早く買い物したら暗くなる前に帰宅できたのになあと後悔していると、
知らない女性から、
「こんなに暗いと怖いわね」
と話しかけられた。
「そうですね」
と私は答えた。
季節にまつわる雑談をしながら歩いた。
その中で、その女性は私が何者であるかを探っていたようだ。
「働いているんでしょ」と訊かれて、「いいえ」と答えると、
「主婦さまですか?」と訊かれたから、そう思った。
「はい、主婦です」と答えたわけだが、「主婦さま」と様づけで呼ばれたことに戸惑った。
私は、他人をそう呼んだことがなかったし、相手が働いているかどうかを気にしたこともなかった。
「主婦だったら、もうちょっと早く買い物しなきゃね」
という説教じみた言葉もあった。
私は、「はい。そうですね」と答え、
「今日はちょっと失敗しました」と言って少し笑った。
その女性は、私よりずっと年上に見えた。なので、「はい。そうですね」と答えるのが角が立たなくて良いと思った。
「では、私はここで」と言って、その女性は別れようとしたが、
私も同じ所に住んでいるので、
「私も、ここなんですよ」と言うと、
その女性は目を大きく開いた。驚いたようだ。
知らない者同士の、その場の空気を埋めるかのような雑談だったが、
私にとって、近所の人と名前と人柄を知る会話になった。
・・・わたむし(妻)